タクミクラフト古民家展2019 レポート① スポット展示の種明かし
5月3日から5日までの3日間、晴天に恵まれるなか開催した古民家展2019。ご来場いただきました皆さま、誠にありがとうございました。また、開催実現にご協力くださった北方文化博物館の皆様にも感謝! 沢海の人情見たり。
さて今年は、古民家展メイン会場の古民家(常盤荘・吉ヶ平)だけでなく、北方文化博物館の主屋などでも伝統工芸との出会いがありました。受付で手渡されるマップを見ながらスポットを巡り、各工芸品の傍にあるマークを集めるクイズを実施。たくさんの方が楽しんで参加してくださいました。
歴史深い主屋ほか8ヶ所でのスポット展示は、その場所と作品にそれぞれ関わりがありました。博物館の名所を紐解きながら、その種明かしをしていきます。
古民家展2019 レポート一覧
①スポット展示の種明かし
②新潟16工芸産地の参加作家紹介
③ワークショップと実演風景
スポット展示 1
主屋玄関から入って靴箱に靴を入れ、振り返ったところの水飲み場の所にあったのが、寺泊山田の曲物 足立茂久商店の新作〈花結び〉。
曲輪の球体は、桜の皮で綴じた桧(ヒノキ)の輪の重なりが味わい深く、季節や置く場所を問いません。アクリルの花器とコラボし、手軽に品良く花を楽しむことができます。
賑やかに大勢が出入りしたであろう伊藤家の玄関には、かつてもさりげなく花が生けられていたことでしょう。窓から差し込む光がとても清々しい場所です。
クイズのマークは「トンビ」。寺泊山田の上空でゆったりと輪を描くトンビが、輪を曲げる足立さんを見ています。
TERADOMARI YAMADA’S MAGEMONO
長岡市指定無形文化財。県内唯一の曲物職人が作る篩(ふるい)や裏ごし、わっぱ蒸籠など伝統の調理道具は、全国の和食・和菓子職人に重宝されています。
作品名:花結び
足立茂久商店+ワタナベ加工
曲げわっぱと同様に桧を曲げ、桜の皮で綴じて作った球体にアクリルの花器を添えました。
〈花結び〉は、こちらのアクリル花器のほかに、柏崎の明城焼 恒炎窯製の陶の花器シリーズもあります。
曲輪の球体は、タクミクラフト・オンラインショップでもお取り扱いしています。足立さんのご好意により、限定数を特別価格で販売中です。
スポット展示 2
伝統工芸品は、もともと日常的に使われる身近な品。ということは、アーティストが作った陶芸作品に格式高い蒔絵の技法で描いた物があってもいいのでは? と、自由な発想で作られたトリオキです。陶芸はさいとうようこさん、蒔絵は羽賀佛壇店の羽賀富美子さんが手がけています。
自然豊富な農村地帯にある御殿の台所にも一羽のフクロウが。止まり木は佐渡小木の流木、お鍋ややかんがある棚の間からこちらを覗いていました。
クイズのマークは「フクロウ」。北方文化博物館の近くにはトラフズクも生息しています。少なくともスタッフはその姿、しかと目撃しました。
A Collaboration With Makie Craftsman
作品名:トリオキ〈グレートオウル〉
蒔絵師 羽賀富美子 + 造形作家 さいとうようこ
企画監修 パルスデザイン 飯塚由美子
鳥の置物 トリオキ。陶器のボディに精緻な筆使いで命を吹き込まれた福の鳥を、ぜひあなたのお傍にも置いてください。
トリオキに関するお問い合わせは、タクミクラフト info@takumicraft.com までどうぞ。
スポット展示 3
2階展示室へと階段を上がるとまず目に飛び込んでくるのは、小千谷縮の空中展示。夏の織物を代表する小千谷縮の爽やかな柄や質感が、夏を迎えようとする空間に心地よく似合っていました。
板張りの2階全体を使い、地域と伊藤家が織り成した古代から現代までの歴史が展示されています。織物を見上げると、この2階の特徴である天上窓から美しい空が見えました。
クイズのマークは「花」。展示品の織物に並んだ華やかな模様です。新潟には小千谷織物の他にも羽越しな布、塩沢織物、十日町織物と、それぞれ特色ある伝統織物産地があります。
OJIYA CHIJIMI
苧麻(ちょま)を原料として古くから生産されてきた麻織物。独特のシボ(しわ)があり、夏でもさらっとした肌触りの縮の心地よさは格別です。
作品名:インテリア・シェード 〈小千谷縮 亀甲に花〉
タクミクラフト + 小千谷織物同業協同組合
涼やかな夏の織物をシェードに仕立て、上品な空間の装いをご提案します。
各種織物に関するお問い合わせは、タクミクラフト info@takumicraft.com までどうぞ。
スポット展示 4
2階展示室には、伊藤家の歴史を伝える様々な品が展示されています。豪農の名にふさわしく、立派な加茂桐簞笥が展示されている一角には、加茂桐簞笥の老舗 鈴木石太郎タンス店の桐エコスピーカーが。
スマホを差し入れるだけで、琴の原理で自然に広がる柔らかな音を楽しむことができます。電源要らずで新時代にふさわしい桐の活用アイディアにも、鉋がけの伝統技術が光ります。まっさらな白肌の桐エコスピーカーが、大先輩のタンスにガラス越しに挨拶しているようでした。
クイズのマークは「椿(ツバキ)」。加茂には花が咲き乱れる椿園があり、雪椿は市のトレードマークにもなっています。
KAMO KIRI TANSU
作品名:桐エコスピーカー〈木地〉
鈴木石太郎タンス店
お琴から着想した電源、電池不要のエコなスマホ用スピーカー。アンプなしで、桐の手触りと同様に優しく音が広がります。
桐エコスピーカーは、タクミクラフト・オンラインショップでもお取り扱いしています。
スポット展示 5
主屋でいちばんの見どころ 大広間の手前にある和室は廊下座敷と呼ばれ、今は待合室、休憩室として利用されています。かつてもお客様たちの待合室だったのでしょうか? 訪れた人たちに歓迎の意を表す床の間には、「想ひ凾(おもいはこ)」。数ある加茂桐簞笥の工房の中でも代々桐凾(きりはこ)作りに特化してきた、野本桐凾製作所の作品です。
使い方はあなたの自由。収納にも飾り棚にも使えます。床の間に飾られた、家の主人からお客様へのメッセージ? 引戸式扉から覗く酒盃は藤見酒のお誘いかもしれません。
クイズのマークは「ツバメ」。加茂川の水辺に舞い飛ぶツバメは、加茂の街並みに春を告げる風物詩です。
KAMO KIRI TANSU
作品名:想ひ凾(おもいはこ)〈焼桐〉
野本桐凾製作所
桐箱製造を発祥とする工房から、現代の生活シーンを彩るインテリアとしての桐箱の提案です。
想ひ凾 に込めた製作者の思いや桐の驚きの効果など、詳しくはこちらをご覧ください。
大切な想いを納める桐箱。新潟の伝統工芸 加茂桐タンス工房製 想ひ箱(おもいはこ)
スポット展示 6
大広間から裏座敷へ通じる赤い土壁には、薄い雲龍紙が風が吹くにまかせてそよぎます。越後生紙の手漉き和紙職人、紙工房 泉の作品です。
チリヨリの模様が、茜空を自在に飛ぶ小さな龍の群に見えてきました。
実はこんなに薄いので、風にあおられて破れてしまうのではないかと心配していたのですが、とんだ杞憂でした。そこは和紙のすごいところ、しなやかで強く、最終日までたおやかに風にたなびき続けました。
クイズのマークは「カエル」。工房のある弥彦山の麓は、田んぼや小川が美しい水をたたえそこに様々な生き物たちが暮らす豊かな地域です。
ECHIGO KIGAMI TESUKI WASHI
はるか昔から昭和初期まで一般的に使われていた生漉(きず)きの紙「生紙(きがみ)」。原料の楮を伝統的な工法を通して、強さ、柔らかさ、光沢、味わいがある美しい和紙に仕上げています。
作品名:手漉き和紙〈雲龍紙 白〉
紙工房 泉
越後弥彦山の麓の工房で作られた、自然や地元の素材を大切にした手漉き和紙です。
スポット展示 7
北方文化博物館の主屋で最も格の高い裏座敷に置かれた村上木彫堆朱 小杉漆器店の逸品は、日本家屋に上品な彩りを与えています。
この裏座敷は、当時の伊藤家主人より身分の高いお客様が来訪した際、お通しする部屋だったそうです。書院造りの窓から自然光がほのかに差し込むその先、茶道具置き場に村上木彫堆朱を代表する総彫飾鉢を選びました。
クイズのマークは「鮭」。村上といえばやはり鮭が有名ですが、堆朱工房が連なる古い街並みを目当てに、観光に訪れる人も多い城下町です。
MURAKAMI KIBORI TSUISHU
天然木に彫刻を施し、何度も天然漆を塗り重ねたうえに繊細な彫りを施します。マットな朱(あか)色が、使うほどに朱く、艶を増す変化をお楽しみください。
作品名:8寸総彫飾鉢 牡丹唐草(8すんそうぼりかざりばち ぼたんからくさ)
小杉漆器店
村上木彫堆朱を代表する伝統柄、牡丹唐草の彫りが見事な飾り皿です。この精緻な彫り模様を活かすため、粘度のある硬い漆を使用するのが村上独特の技法です。
スポット展示 8
離れの茶室の三楽亭の中には、地元江南区の熟練度マックスの蒔絵職人、渡辺さんが手がけた玉手箱を展示しました。同じ新潟仏壇の親しい職人仲間と一緒に製作した思い出の品。思い切ったモダン蒔絵に挑戦した作品です。
知る人ぞ知る北方文化博物館の名建築 三楽亭は、すべてが三角形と菱形で構成されているという驚くべき構造の茶室兼書斎です。六代目当主が21歳の若さで設計した大胆な挑戦が、名大工の手で具現化されており、ただただ目を見張ります。※建物の保存のため、室内には入れません。
クイズのマークは「ミツバチ」。新潟市江南区は梨やル レクチエなど果物の産地で、その受粉にはミツバチが活躍しています。ミツバチの巣の六角模様と果花がモチーフの絵柄ですが、実は玉手箱の形にもこだわりが。加茂桐簞笥の職人製 桐の玉手箱は五角形の蓋、蓋の底辺を1つ足すと絵柄と同じ六角になる!という遊び心が隠されています。
NIIGATA BUTSUDAN
県内に複数ある伝統仏壇産地のひとつ。漆で絵や文様を描き金粉などを蒔く、蒔絵装飾の美しさに定評があります。
作品名:新潟玉手箱〈GOKAKU 五角 色漆蒔絵 新潟花果〉
新潟仏壇組合
多角形がユニークな玉手箱。江南区にゆかりのある果花を色漆で描きました。
新潟仏壇職人の意欲作、〈NIIGATA TAMATEBAKO 新潟玉手箱〉について詳しくはこちらをご覧ください。
新潟玉手箱 新潟仏壇の新しい挑戦
隠れスポット 茶房 井戸小屋
ここまでご紹介した8つのスポット展示に加え、隠れスポットとして敷地内の茶房 井戸小屋では、会期中大忙しの喫茶室をコイオキとネコオキたちがお手伝いしていました。井戸小屋という名前の通り、かつて本当に使われていた伊藤家の井戸を、喫茶室の中で見ることができます。
おしるこを頼んだ人だけが偶然出会えるからくり。晴天続きの会期中、おしるこを召し上がった人は少なかったかもしれませんが、当たった人はラッキー!でした。伝統工芸品は、こうして実際に使って楽しみ愛でることで、その良さを肌身で感じられるものです。
おしるこのお椀は村上木彫堆朱、天井には寺泊山田の曲輪の球体が照明のオブジェとして使われています。こちらは現在もご覧になれます。
漆絵と蒔絵の愛らしいものたち
KOIOKI – NEKOKI – TORIOKI
錦鯉、猫、梟をモチーフに、仏壇伝統工芸士たちが手がける色漆と蒔絵の愛らしいシリーズが揃いました。
〈KOIOKI コイオキ〉は、新潟県の観賞魚「錦鯉」を、めおと伝統工芸士の羽賀良介さん、富美子さんが箸おきに仕立てました。本物の素材だけを使い、一匹一匹、丁寧で緻密な工程を重ねています。
〈NEKOOKI ネコオキ〉は、新潟のクリエイターと県内複数の仏壇伝統工芸士の手から生まれたネコの箸おきです。熟練職人たちの手から、今日も様々な愛らしいネコオキが生まれています。
〈TORIOKI トリオキ〉は、オブジェアーティストと蒔絵師がコラボレーションしたペーパーウェイト、学びのお守りです。ユニークな佇まいに思わず笑みがこぼれます。
コイオキ、ネコオキは、タクミクラフト・オンラインショップでお取り扱いしています。
工芸品とマークを探しながら北方文化博物館の見所を巡るミニツアー、いかがでしたか。古民家展が終わり工芸品やマークは現在展示されていませんが、初めての方も何度目かの方も、ぜひ新たな視点で豪農の館 北方文化博物館を巡り、味わい尽くしていただきたいと思います。
さあ、古民家展2019レポートは次回、新潟16工芸産地の参加作家紹介へと続きます。
タクミクラフト古民家展 2019 レポート一覧
①スポット展示の種明かし
②新潟16工芸産地の参加作家紹介
③ワークショップと実演風景
photo: mika nakanishi
「タクミクラフト古民家展 2019」
会期:2019年5月3日(金・祝)〜5日(日・祝)
会場:北方文化博物館 登録有形文化財 茶室 常盤荘・古民家 吉ヶ平
主屋をはじめとするスポット展示
主催:タクミクラフト
協力:一般財団法人 北方文化博物館
オリジナルスピーカー製作・音響 関利朗
太鼓演奏 太鼓集団 鼓明楽(コアラ)
和紙行灯 越後門出和紙、越後生紙和紙振興会
photo: mika nakanishi, morihashi
参加16産地(工房/作家名 敬称略):
羽越しな布 (大滝ジュンコ)
村上木彫堆朱 (池野漆工芸、小杉漆器店、鈴木漆器店)
新潟仏壇 (新潟仏壇組合、羽賀佛壇店)
白根仏壇 (山口木彫製作所)
新潟漆器 (野澤寛+足立茂久商店)
越後生紙手漉き和紙 (紙工房 泉)
加茂桐簞笥 (鈴木石太郎タンス店、野本桐凾製作所)
三条仏壇 (石川仏壇店、山田仏壇店)
越後三条打刃物 (諏訪田製作所+ぼんさい屋とき)
燕鎚起銅器 (渡邉和也)
寺泊山田の曲物 (足立茂久商店)
越後与板打刃物 (渡徳工業)
長岡仏壇 (廣川仏壇店)
小千谷織物 (小千谷織物同業協同組合、杉山織物)
塩沢織物 (桑原織物)
十日町織物 (十日町織物工業協同組合、吉澤織物)
タクミクラフト企画製品