2024.07.13 フィールドワーク参加レポート
城下町村上 堆朱巡り~伝統の技と心を知る~
新潟日報メディアシップのオープンに合わせて開校し、昨年開学10年を迎えた新潟日報みらい大学。「学び合い、ともに創る」を合言葉に、毎年さまざまなテーマで講座やフィールドワークなど学びと体験のプログラムが実施されています。4年前にはタクミクラフトも、伝統工芸の現在を伝えるトークイベントに県内の作り手のみなさんと参加しました。
新潟日報みらい大学 2024年度のテーマは「にいがた 暮らしと伝統のものづくり」
“本県には独特の気候や風土、歴史を背景に長年受け継がれてきた伝統技術を生かした工芸品がたくさんあります。経済産業大臣指定の「伝統的工芸品」は16品目で、全国3番目、これとは別に県が指定する「新潟県伝統工芸品」も15品目あります。今年度の新潟日報みらい大学では、価値観が多様化し、私たちの暮らし方自体が変わってきている中、改めて伝統の技術に裏打ちされた工芸と、それらが彩る暮らしについて考えていきます。”
(新潟日報みらい大学より引用)
4月の第1回公開講座に続き、7月13日(土)には村上市で、経済産業大臣指定伝統的工芸品の「村上木彫堆朱」をテーマにしたフィールドワークが開催されました。現地での工房見学や製作体験、職人の皆さんとの交流を通して、城下町村上の堆朱文化を体感する濃厚なプログラムをレポートします。
日時 2024年7月13日(土)9:30~16:00
会場 村上市役所~市内中心部街歩き~村上市生涯学習推進センター
主催/新潟日報社 後援/村上市 特別協力/村上堆朱事業協同組合
【午前の部】「城下町村上 堆朱巡り」
朝から気温も高く暑い1日。堆朱ゆかりの神社「藤基神社」で、宮司さんやファシリテーターを務める長岡造形大学 吉川准教授のお話を聞きながらスタート。
村上木彫堆朱の祖とも呼ばれる、名工「有磯周斎(ありいそ しゅうさい)」による精緻な彫刻の数々。一本の木から彫出し立体的に仕上げる「籠彫り」と呼ばれる技法で製作されています。梁には神紋である「下り藤」の装飾も。
境内で3班に分かれ、市内に点在する堆朱のお店を巡ります。見学できる堆朱の店舗や工房は全部で9軒。タクミクラフトはA班の皆さんとご一緒に、市内中心部エリアへ。
一軒目に訪れたのは小杉漆器店。数々の貴重な調度品を見せていただきながら、塗り師の小杉さんから漆の特徴などお話を伺いました。7月7日の村上大祭の人形さまも運良く飾られており、縁起の良いお姿を間近で拝見。
続いて池野漆工芸へ。ご夫婦で休むことなく手を動かしながら、堆朱技法や製作で心掛けていることなど、作り手ならではのお話を聞かせてくださいました。
時代ごと、また地方によっても朱(あか)の色が異なるというお話が印象的でした。ここ新潟の朱色は、長い冬、暗い曇天の下で暮らす生活にあった鮮やかすぎない落ち着いた朱。そして厳密に言うと工房によっても一軒一軒朱色が異なり、「職人が見ればどこの店のものかがわかる」のだそう!
池野さんの工房でじっくりと見学をしたところでA班は解散。ここからは各自工房MAPを手に、お目当ての工房、店舗を回ります。
タクミクラフトは2名の職人さんが実演を行う町屋のお休み処えんやへ。大正14年(1925年)の建物では、B班の皆さんが熱心に見学されていました。
中心には軽快なトークで参加者を楽しませながら、地研ぎや彫刻の実演を行うお二人の姿が。毎度どこへ行っても感服するのですが、職人の皆さんはお話がとってもお上手。技で魅せながらトークでも惹きつける、これぞエンターティナーです。
3軒見学したところであっという間に午前の部が終了。工房見学の道中では、村上名物「塩引き鮭」の群れにも遭遇しました。間近で見る鮭の顔はかなりの迫力。
時間に限りがあり、歩いた距離はそれほど多くなかったのですが、町並みの随所に村上の文化を感じることができ、充実した町歩きとなりました。
【午後の部】「木彫り体験と交流会」
見学の後は会場を「マナボーテ村上」に移し、村上木彫堆朱の箸・木彫り体験を行いました。
「村上木彫堆朱」の技法や歴史などは村上堆朱事業協同組合のウェブサイトをぜひご覧ください。
木彫りをする際のコツや道具の説明を受けて、いざ体験!「ウラジロ」と呼ばれる両刃の彫刻刀で模様を彫り進めていきます。思った以上に難しく、四苦八苦。線がこんなに太くなってしまっていいのかと焦っていましたが、せっかく彫った模様を上から塗る漆が埋めてしまわないよう、溝が細すぎないほうがいいのだと教えてもらいホッとひと安心・・・。
たった1膳のお箸でも、必死で彫っていると普段使わない指の筋肉が攣りそうでしたが、本職の方はこれを10セットくらい一列に並べて、大量のお箸に一気に模様を彫っていくそうです。お箸4面に細かな彫りを施す場合もあるとのことで、想像するだけでも手が筋肉痛になりそうです。作り手の皆さんの鍛錬と実技経験の量に頭が下がります。
必死になって彫っていると職人の皆さんが各テーブルを順番に回って直接指導してくれ、ここぞとばかりに質問に花が咲きました。自分ではどうしようもなくなってしまって、思わずプロに手を貸してもらう場面も。実際に体験すると、作り手の皆さんの凄さを改めて感じることができます。
皆さんすごい集中力でお箸と向き合い、一時間ばかりの製作体験があっという間に過ぎました。今日彫ったお箸は職人さんの手できれいに漆塗りをしてもらい、後日参加者の自宅に届けられます。自分と職人さん合作のお箸!世界にただひとつのマイ箸、完成がとても待ち遠しいです。
フィールドワークのしめくくりには、参加者全員から自己紹介とともに本日の感想を発表いただきました。工芸を専攻している学生さんから、Uターンで新潟に戻ってこられた方、ご夫婦や親子で参加された方などさまざまでしたが、皆さんの感想からは共通して本日の”ディープで暑い(熱い!?)フィールドワーク”を通して、堆朱の技と文化に感動されたことが深く伝わってきました。既にお持ちの堆朱作品を益々大切に愛でてゆきたいとおっしゃった方も、これからお金を貯めて自分の堆朱を手に入れたいとおっしゃった方もおられて感動しましたが、この会場にいる皆がそれぞれにすっかり堆朱の素晴らしさ、そして堆朱の作り手さんたちの虜になりました。
タクミクラフトも堆朱工房や店舗、町の至る所で大切に使われ受け継がれている堆朱製品を目にし、「工芸品は日用品であり、美術品ではない。毎日の暮らしの中で使ってこそ愛着が増し、輝いていくものなんだ」と改めて感じた1日でした。今日体感したこと、感動したことを、これからまたひとつでも多く、ひとりでも多くの方に伝えてゆきたいと思います。
今回のフィールドワークの様子は、2024年8月10日(土)の新潟日報朝刊にも特集記事として掲載されたほか、新潟日報みらい大学のウェブサイトにも開催レポートが公開されました!ぜひご覧ください。
次回の新潟日報みらい大学は、9月22日(日・祝)にメディアシップで開催される第2回公開講座「伝統技術を届ける、伝える、広げる」です。公式ウェブサイトでのご案内をどうぞ楽しみにお待ちください。