WORKSHOP REPORT
日本全国、伝統工芸の有名産地は数あれど、新潟も伝統的工芸品の指定数は京都、東京に次いで全国3位というものづくり県。美しい工芸品をただ見るだけでなく、体験しながらその魅力や歴史を学べる場所が多数あります。
そんな新潟にいらした関東在住の母みちよさんと娘のひなこさん。新潟に来ること自体が初めて、というお二人ですが、ひなこさんが伝統工芸に興味を持ち、新潟にはどんなものがあるのか、どこにあるのか、そこから知りたいというご希望で旅を計画。
二人で「新潟の伝統工芸を知る旅」に出ました。
たくさん体験してみたい、というご希望にあわせ、タクミクラフトからは三条〜加茂ルートをご紹介。
まずは新幹線で燕三条駅に降り立ち、三条ものづくり学校へ向かいます。
① 三条ものづくり学校「塗場(ぬりば)」で三条仏壇 蒔絵体験
工芸品を製造する工房が多く集積する三条〜加茂エリア。まずは燕三条駅から三条ものづくり学校へ。
閉校した小学校の校舎を利用し、三条市が民間に管理運営委託している施設です。三条のものづくり事業の発展のために、伝統工芸やさまざまなクラフト工芸を紹介、ワークショップも随時おこなっています。
エントランスでは様々なものづくりに関する取り組みが紹介されています。
教室に向かう階段の踊り場には職人言葉の解説が書かれていたり。
伝統的工芸品 三条仏壇 製作体験工房「塗場」に到着。
蒔絵師さんから蒔絵の技法やワークショップの内容を教わります。仏壇製作のどの工程のお仕事なのかも学べます。
スマートフォンケース、箸、手鏡、コースターなどさまざまな素材から絵を描くものを選びます。
型紙がたくさんあるので、好きな絵柄を選んでも良いですし、自信のある人は自分で下絵を描く事もできます。
かぶれるといけないので、このコースのお客様は漆の代用品(カシュー)で蒔絵を体験します。
二人は手鏡を選び、小鳥と紋様の型紙を使って真剣に下塗りをしていきます。
蒔絵師さんが要所要所で気をつけてくれるので、初めてでも難しい作業を安心してこなせます。
下描きが済んだら乾かして、色粉を綿で丁寧に上から押さえつけてできあがり。描く内容にもよりますが早くて30分〜1時間ほどで体験することができます。
出来上がった作品は持ち帰りできます。
三条仏壇のワークショップはこのほかに金具の飾り打ち体験もあります。これは本職の金具師さんによる名品、ワークショップでは主にネームプレートやキーホルダーを作ります。
毎回プログラムが違うので、ホームページなどで確認し、できれば予約を取ってから行きましょう。
TEL: 0256-34-6700 開館時間: 8:30~22:00 (三条仏壇の製作体験は土日のみ。ワークショップによって開催される曜日や時間が異なります。HPをご確認ください)HP 三条ものづくり学校 ワークショップ予定
材料費込みで体験料が必要です。今回の蒔絵体験は材料費込みで1,200円(税込)でした。
②越後三条打刃物 「三条鍛冶道場」でペーパーナイフ作り
次に向かったのは三条鍛冶道場、入り口は高架の下なので少しわかりにくいですが、大きな看板があります。
三条は古くから金物のまちとして全国に知られ、現在では全国有数の金物産業都市と言われるまでに発展しています。
三条鍛冶道場にはその歴史ある三条鍛冶の技を伝えるベテラン職人が様々なワークショップを担当しています。月曜日を除く毎日、随時参加を受け付けています。
今回は、金属を鍛えるとはこういうことか!と実感できる「五寸釘によるペーパーナイフ作り体験」を受講しました。エプロンをつけて、材料の5寸釘をもらいます。
経験豊かな職人さんが親切に教えてくれます。
教わったとおりに打ち込めば、火花が散ってもこわくありません。鉄を鍛える本格的な体験を、小学校高学年以上なら誰でも体験できます。
最初は材料のクギだったものがうち伸ばされてみるみる形を変え、ナイフの形になっていきます。
仕上げにベルト研磨機で形を整え、ブラストマシンで鉄の表面を滑らかにして、自分だけのペーパーナイフのできあがり。
叩く、削る、磨くという鍛冶の基本を体験できる、30〜40分ほどのワークショップです。
道場には名工たちの作った見本が陳列されています。爪切り、剪定ばさみ、包丁、etc. お母さんはお父さんへのお土産に工芸士の作ったナイフを買いました。
他に常設講座として「和釘づくり体験」や、人気の「包丁研ぎ体験」があります。常設講座以外の講座もありますので、HPで確認してから行きましょう。
常設講座:休館日をのぞく毎日開催
【和釘づくり】【ペーパーナイフづくり】【包丁研ぎ】
9:00〜17:00 但し体験受付は15:30まで
休館日・・・月曜日/12月29日から翌年1月3日まで(月曜日が祝日の場合はその翌日)
※月曜日以外は随時受付をしております。
HP kajidojo.com ワークショップの予定
観光ひとくちメモ 三条
三条祭り
毎年春5月に行われる八幡宮の大祭で、十万石格式の大名行列が有名です。奴振り(やっこふり)江戸時代からの伝統で、高い下駄を履いて歩く天狗様(導祖神)なども加わって、長い行列が町をねり歩きます。
天狗様は祭り前に厳格に精進し身を清めた二人の徒士(かち)が、氏子衆に付き添われて最初は2枚歯の下駄で歩き、途中から1枚歯の下駄で歩きます。非常にバランスがとりにくい状況ですが、転ぶと火災が起きると言われており、けして転ぶわけにはいかない責任重大な大役です。
夕方には「舞込(まいこみ)」という行事があります。導祖神、お神輿、太鼓がそれぞれ神社の周りを走って三周するのを、三条のお父さんたちは幼い子供を肩車し、足袋はだしで後を追います。この神事に参加した子供は元気に育つという言い伝えがあり、お父さんに肩車された祭り化粧の三条っ子が大勢集まります。
伝統工芸の盛んな地域のお祭り神輿やその飾り鉾の製作には、地元の職人たちも大いに腕をふるいます。宮大工の指導のもと、指物師、飾り職人たちがここ一番と腕をふるったお神輿は圧巻です。
町の大きなお寺の赤門にも、金具師の手仕事を発見。
③ 加茂桐簞笥の工房で鉛筆立て作り
加茂と三条は近いので、このエリアなら1日で2カ所の伝統工芸産地を巡ることができます。
金属の次は木工ということで、全国的にも有名な加茂桐簞笥の産地、加茂へ移動します。
普段はワークショップをしていなくても、問い合わせれば予約を受け快くお客様を迎えてくれる工房もあります。今回は野本桐凾製作所へ見学に行きました。
工房の中は桐のほかにも欅製のものなど、さまざまな家具がありました。引き出しを開け、その精巧なつくりに驚いているひなこさん。
タンスの構造についてじっくり聞くのは実は初めてかもしれない。(写真は仙台簞笥)
ワークショップとして、桐の鉛筆立てを作らせてもらいました。ベテランの職人が用意してくれた材料なので、あとは組み立てて仕上げるだけの簡単な作業です。
それでも釘をつかわないという、桐簞笥の基本的な工程が実感できます。
桐箪笥の構造の基本は箱ですから、きちんとした箱を作ることが初めの一歩なのです。
もちろん出来上がった作品はお持ち帰り。
ジオラマを趣味でつくっているひなこさんは、桐の端材をもらって大喜び。
加茂桐簞笥協同組合に所属する工房のなかには、繁忙期でない場合に限り、今回のようにお客様の訪問を予約で受けてくださる工房もあります。
今回ご紹介したワークショップをしてくださったのは、野本桐凾製作所さん。現地で見学/体験をしたい方は、予約可能か必ず事前に問い合わせてお出かけください。
野本桐凾製作所 TEL: 0256-52-1513
組合HP TEL: 0256-52-0445
今回の旅で3つものワークショップをしたお二人、次回は織物の体験をしてみたい!と話しながら、このあとは温泉とお寿司、新潟観光を楽しみ帰路につきます。
将来職人さんになりたいかもしれない?娘のひなこさんと、それを一緒にさぐってみようという母、みちよさんの母娘旅でした。
実際に体験してみる、その土地をみてみるという旅、もちろん観光も楽しみながら、一味違う新潟の旅はいかがでしょうか。
観光ひとくちメモ 加茂
加茂川の鯉のぼり
雪の残る早春は神社公園の雪椿がみごとです。4月中頃から5月いっぱい、加茂川には数百もの鯉のぼりが上空に泳ぎます。列をなして風にたなびく鯉のぼりは、加茂川の清流や春の青空に映えます。
小京都と呼ばれる加茂には、風情ある昔の街並みがところどころに残り、六角神輿のお祭りや、青海神社のお祭りなどが催されます。地酒の蔵「マスカガミ」や新町の古い町並み、清流加茂川沿いの家並みを眺めながらの町歩きもおすすめです。
川と山に恵まれたこの町では、昔から水路を利用して桐簞笥を搬出していました。今では水路こそ使われていませんが、名残の清流が町の所々を流れています。また、簞笥の材料である桐材を、3年余りかけて渋抜きするために干す「板干し」光景はこのエリア特有の風物詩です。
青海神社にある十二支と幻獣の木彫り物も見事。奉納された手技に、地域の優れた工芸技術を垣間見ることができます。お祭りや神社を訪れた際には、是非そういった視点でご覧になってみてください。